Free【連載・世界のJOMONへ】第4部 見えてきた登録(1)シリアルノミネーション

連続性のある17遺跡で構成し、世界文化遺産登録を目指す北海道・北東北の縄文遺跡群(写真はコラージュ。青森市の三内丸山遺跡と、下は秋田県鹿角市の大湯環状列石)
連続性のある17遺跡で構成し、世界文化遺産登録を目指す北海道・北東北の縄文遺跡群(写真はコラージュ。青森市の三内丸山遺跡と、下は秋田県鹿角市の大湯環状列石)

貴重な建造物や自然などを破壊から守るために設けられた「世界遺産」。2019年7月時点で、文化遺産869件、自然遺産213件、複合遺産39件の計1121件が登録されている。ピラミッドや城など見た目にインパクトがあり、単一の資産だけで価値が分かりやすい遺産もある一方、近年は土に埋もれた古い遺産のように単一だけでは価値が分かりにくい遺産も増え、より多様化が進んでいる。21年の世界文化遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」は後者に入る。
 縄文遺跡群は、単一の資産で構成する「姫路城」(兵庫県)や「厳島神社」(広島県)などと異なり、関連性のある複数の資産を一括で申請している。この方法は「シリアルノミネーション」と呼ばれ、世界的に登録例が増加。背景には、世界遺産の多様化を目指す国連教育科学文化機関(ユネスコ)の戦略がある。
 文化遺産は欧州の教会や古代都市などの登録例が多く、地域と年代に偏りがある。そのため、登録例が少ない20世紀の建築物や産業遺産、縄文遺跡群のような先史時代の遺産は、人間の歴史にとって大切な文化の一つとして評価が進んでいる。単一では価値が認められにくい遺産でも、複数の連続した遺産群としてくくれば価値が認められ、積極的に登録されるようになった。
 文化庁文化資源活用課の鈴木地平文化財調査官(40)は、「生物だけでなく人間の文化も多様性がある。今まで世界遺産に反映されなかったものを登録する流れは、ここ10数年で強調されている」と指摘。青森県世界文化遺産登録推進室の岡田康博室長も「縄文遺跡群はユネスコの戦略とマッチしている。登録に向けて時代の追い風を利用したい」と力を込める。
 一方、複数の資産で登録を目指す場合、単一の遺産より価値は複雑化する。世界遺産の登録や遺跡を長く残していくためには、分かりやすい説明と共に、魅力を多くの人に伝える地域の協力が不可欠で住民参加が鍵を握る。
 数多くの登録に携わってきた鈴木調査官は、住民参加型の例として「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(18年登録・長崎、熊本)を挙げる。
 同遺産には長崎県小値賀(おぢか)町、新上五島町など離島の構成資産も含まれ、両町では住民が世界遺産をガイドしたり、歴史を語ったりするだけでなく、古民家を改修して宿を整備するなど町おこしにも力を入れる。鈴木調査官は「世界遺産だけ守っても、住民がいなくては潜伏キリシタンの話は伝わらない。町や島が元気になる手段の一つに世界遺産があるという位置付けだ」と強調する。
 縄文遺跡群の場合、4道県には構成資産以外にも縄文遺跡が数多く存在することから、「構成資産周辺の遺跡も一緒にアピールしていけばいい。縄文遺跡群は、行政や専門家など限られた人のものではなく、自分たちの宝として認識すれば、住民も参加する意識が生まれてくるのでは」と提言する。
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 「北海道・北東北の縄文遺跡群」の国際記念物遺跡会議(イコモス)による現地調査が15日に終了。世界遺産登録に向けた審査は新たな段階に入った。21年の登録を確実なものにするには何が必要か探る。

 
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