Free【デジタル限定】きみは「おうしゅうたろう」を見たか 岩手に舞い降りた“宇宙人”

                                                                       


 広い岩手県内で、宇宙人の友好的な“侵略”が始まっている。県南部の奥州市では昨年5月、宇宙からやって来た「おうしゅうたろう」が市公式マスコットキャラクターに就任。丸みを帯びてもちもちとした愛らしい姿で、グッズ展開もされ、知名度は高まる一方だ。市民だけでなく県内外にもファンを獲得するほどで、市の担当者は「おうしゅうたろうと一緒に奥州市の魅力を発信したい」と今後の展開に期待する。

 奥州市は世界が注目する大リーガー、大谷翔平選手のふるさと。偉業をたたえる横断幕が屋外ではためく市役所庁舎の中に入ると、各課の入り口や天井からぶら下がる課名のプレートなどあちらこちらに、おうしゅうたろうの縫いぐるみが。職員個人の机の上にまで鎮座するなど、多くの職員が進んで“侵略”を受け入れている様子がうかがえる。

大谷翔平選手の偉業をたたえる横断幕がたなびく奥州市役所=8日
課の入り口に現われた「おうしゅうたろう」=8日、奥州市役所
課の入り口に現われた「おうしゅうたろう」=8日、奥州市役所
課名のプレート近くを陣取る「おうしゅうたろう」=8日、奥州市役所
課名のプレート近くを陣取る「おうしゅうたろう」=8日、奥州市役所


 練り上げられた“侵略”戦略
「おうしゅうたろう」がマスコットキャラクターになった経緯を教えてくれた及川さくら主任=8日、奥州市役所
「おうしゅうたろう」がマスコットキャラクターになった経緯を教えてくれた及川さくら主任=8日、奥州市役所

市ふるさと交流課によると、おうしゅうたろうは2024年5月10日に誕生。「伝染(うつ)るんです。」「ぷりぷり県」などで知られる同市出身の漫画家・吉田戦車さんがデザインした。

 自らを「ミー」と呼び、語尾は「ビン」。同市の伝統工芸品・南部鉄器の鉄瓶を携帯、「米」の字が記された腹掛けを身に着ける。同市産ひとめぼれが大好き。同市を調査する任務でやって来たが、乗ってきた宇宙船は、鉄の質の良さを気に入った南部鉄器職人により溶かされてしまい、住み着くことになった。

 市は23年春、市を代表するキャラクターを生み出すべく、若手職員中心のプロジェクトチームを編成。職員が案を出し合い、吉田さんからも考えを聴いてイメージを練り上げた。同年9月、デザインが決定。その後市内の小中学生約7800人から名前を募集し、小学生が名付け親になった。

 事業の始まりから携わった同課の及川さくら主任は「市からの広報物の内容が堅い、市役所自体にも入りにくいなどのイメージを、新キャラクターで払拭(ふっしょく)したかった」と検討に至ったきっかけを語る。

 市は交流サイト(SNS)での情報発信に登場させるほか、市民向けの広報物にイラストを載せたり、子育てに関する事業で縫いぐるみを子どもに見立てたりと幅広く活用する。及川主任は「広報などに出ていたり、おうしゅうたろうの言葉として伝えたりすることで、発信する内容が軟らかくなった」と効果を喜ぶ。

 「家族にならないか」
イラストが皮にプリントされたもなか
イラストが皮にプリントされたもなか

人気は市役所の外にも広がっている。同市在住の音楽家は自発的に応援ソングを制作。市内の小学校では、学習発表会の演劇におうしゅうたろうに(ふん)した児童も登場したといい、魅力にはまる住民が増えつつある。

 市が著作権を有するイラストデータは、申請すれば無料で使用可能。多種類のイラストを活用したクリアファイルやアクリルスタンドといったグッズも作られ、市内で販売されている。

 同市水沢大町の菓子(どころ)後藤屋は今年1月、イラストを皮にプリントしたもなかを発売した。後藤大助代表は「かわいくて私が気に入ってしまった。無料で使えるので商売のチャンスと思った」と語る。

 若者から年配の人まで広く店に来てくれるので、良い効果を実感。「みんながこれほど盛り上がるとは。いいことだし、こちらも楽しい気持ちになる」と市の取り組みを評価する。

イワブチ本店では、現在はおうしゅうたろうがいないことを来店客に伝えている=10日、奥州市
イワブチ本店では、現在はおうしゅうたろうがいないことを来店客に伝えている=10日

グッズの中で人気が高い物の一つが、限定販売の縫いぐるみだ。同市水沢寺小路のイワブチ本店は、昨年11月と今年2月の2度販売し、計800体が全て売れた。同社の岩渕美恵子さんによると、発売日は行列ができ、先頭の購入客は午前4時すぎから並んでいた。

関西からの注文もあった。

 販売は、店に仮住まいするおうしゅうたろうたちを、家族として受け入れてくれる人に譲渡する会を開いた―との設定で実施。来店客も世界観に浸りながら、迎えたい縫いぐるみを自分の目で探していたという。

 岩渕さんは、店側と購入者が一連の盛り上がりを一緒に楽しんでいる状況を喜び、「自分も最近、奥州市が住みやすいまちだと感じるようになった。県外にも『家族にならないか』と呼びかけ、おうしゅうたろうが住みやすいと思うまちを増やしたい」と意気込む。

 Оに秘められた謎とは

おうしゅうたろうが地球で活動を始めて間もなく1年。頭の「O(オー)」の字の意味など、謎に包まれた部分は市が少しずつ明かしていくという。

 及川主任は「みんなで育てるキャラクター」と語り、さらなる活躍や人気の高まりを期待する。願うのは、“侵略”による、市民の地元愛の高まりだ。「特に子どもには、おうしゅうたろうが好きな気持ちを通じて、大人になっても愛着を持ってもらえる奥州市になればうれしい」




 
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