Free【号外で振り返る2024】③尊富士 「尊富士、新入幕V」
110年ぶりの歴史的な偉業―。 3月の大相撲春場所で、五所川原市出身の力士・尊富士が新入幕優勝を決めました。県出身力士の優勝は、1997年の大関貴ノ浪(三沢出身)以来。新たなヒーローの誕生に青森県内全土が興奮に沸き立ちました。
その後の尊富士ですが、けがの影響で夏場所を休場。十両に陥落してしまいます。7月の名古屋場所では、途中出場しましたが再び休場する事態となりました。
「幕内で尊富士の雄姿がまた見たい」。県民の期待を尊富士は期待を裏切りませんでした。
9月の秋場所では十両優勝を決め、3場所ぶりの再入幕を果たします。11月の九州場所では勝ち越しも決めました。相撲王国・青森が誇る新星に2025年も目が離せません。
【その時とそれから】
不撓不屈の勇姿、記憶に刻む 地元五所川原、祖父母ら歓喜(3月25日)
全国の相撲ファンが、快進撃を続ける1人の若武者に熱視線を送った。24日の大相撲春場所千秋楽。1914年以来110年ぶりとなる新入幕優勝の歴史的偉業を、五所川原市出身の尊富士(24)が成し遂げた。前日の負傷の影響が心配されたが、鋭い立ち合いから攻め抜き、自らの手でつかんだ賜杯。地元のパブリックビューイング(PV)に集まった市民は「やったー!」「バンザーイ」と歓喜に沸いた。「あの優しかった子が、強く、立派になった」。けがに負けない不撓不屈の精神は感動を呼び、勇姿を見守った家族の目には万感の涙があふれた。
前日の取組で右足首を痛めて救急搬送され、出場が危ぶまれた尊富士。だが、堂々と土俵入りする姿が中継されると、市民ら約160人が詰めかけた五所川原市役所のPV会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
いよいよ大一番。母方の祖母・工藤洋子さん(73)は、祖父の弘美さんと共に、テレビの向こう側で精神を研ぎ澄ませる孫を祈るような表情で見詰めた。
尊富士が鋭い張り差しで豪ノ山の勢いを止めると、会場は「おー」「いける!」と大興奮。押し倒しで勝利し、優勝が決まった瞬間は熱狂がピークに達した。
佐々木孝昌市長から祝福の花束を受けた弘美さんは「男の孫は5人いるが、中学以降も相撲を続けてくれたのは尊富士だけ。練習後に(大好物の)唐揚げと馬肉を食べさせ続けてよかった」とおどけつつ、あふれ出る歓喜の涙を拭った。
洋子さんは「記録よりも、記憶に残る力士になりたい」という尊富士の言葉に触れ、「記憶に残る相撲をしてくれた。おめでとうよりも、ありがとうと伝えたい」と孫の快挙を喜んだ。
佐々木市長は「地元に帰って来るときにはパレードを企画したい。夏の五所川原立佞武多では先頭を歩いてもらいたい」と話し、五所川原市民栄誉賞を新設して授与する考えを示した。
小中学校時代に指導した、つがる旭富士ジュニアクラブの越後谷清彦総監督(61)は、つがる市内で中継を見届けた。高校時代には、けがを押して涙ながらに出場を願い出たこともあると聞いたという。「その時と千秋楽の姿が重なった。責任感の強さは変わらないね」と教え子をたたえた。
同クラブで稽古に励む市立木造中2年の中野匠毅さん(14)は、尊富士がクラブに来た際の様子を振り返り、「優しい先輩だった。それが(場所中は)勝負をしている人のオーラがあった。自分もあんな力士になりたい」と目を輝かせた。
春場所を通した尊富士の活躍に「相撲王国・青森」は沸き立った。青森県相撲連盟の櫻田一雅会長は「大相撲を盛り上げてくれた。攻める相撲の内容で、心技体が一致したからこそ優勝できた」と語った。
新進気鋭の24歳が魅せた相撲は、確かな記憶を地元の人々の心に刻んだ。
|