Free【揺れる水産都市・第5部「新しいハマへ」】㊤諦めない

今季の定置網漁に向けて、漁網の修繕を行う石井駿吾さん。八戸から「新しい漁師のあり方」を模索する=3月下旬、八戸市
今季の定置網漁に向けて、漁網の修繕を行う石井駿吾さん。八戸から「新しい漁師のあり方」を模索する=3月下旬、八戸市

3月下旬、春めいた風が吹き始めた八戸市の大久喜漁港。岸壁では、南浜漁協所属の定置網漁船「清和丸」の乗組員たちが、約1年間使用して消耗した漁網のほつれなどを修繕していた。船員の石井駿吾さん(30)もその一人。「定置網は意外とおか仕事の方が多いよ」。ラジオの音声が鳴り響く中、慣れた手つきで、黙々と作業に励んでいた。

 漁師になって13年。清和丸の船頭である父に「手伝え」と言われて仕事を始めたが、今では「こんなに面白い仕事はない」と思う。

 船から見える景色は同じものはなく、型にはまらずに、自分たちで考えて動くことができる仕事。「きつい」「つらい」というイメージがつきまとうが、「おいしい魚が食べられて、もう辞められない。自分の性格に合っている」。天職であるとひしひしと感じる。

 ただ、この10年で海洋環境が変わって、魚が取れなくなってきた。「今までの漁師の在り方から変わらないといけない」との思いが日に日に強くなる。

 かつて水揚げ日本一を誇り、全国有数の漁港として名をはせた八戸港。魚がたくさん取れて、安くてもとにかく売りさばいた時代の名残が依然としてあり、「魚の価値を見てくれない」と悔しさを感じる時が何度もあった。

 取れた分だけ、そのまま市場に水揚げする時代は終わった。船上での血抜き、神経締めで鮮度維持に努めたり、魚種によっては直接、東京・豊洲市場へ送ったりすることも試している。昨春からは館鼻岸壁朝市に出店し、自ら漁獲した鮮度の良い魚や「漁師飯」を販売し、消費者目線も養ってきた。

 独自の販売網を持つ重要性も実感している。青森県内各地で志を同じくする漁業者と共に、魚の注文を融通し合ったり、情報交換したりする団体を立ち上げた。「最初は1人で何とか頑張ろうと思っていたけど、1人だと限界があると感じた」。同志の存在は心強い。

 水産業が厳しい現状にあることは身を持って感じているが、嘆いていても仕方がない。地元の人にもっと「八戸の魚はおいしい」という、シンプルな情報を知ってほしい。「『八戸はこうだから駄目』と諦めるのではなく、根気強く動いて魚の価値を高めたい」とその決意は固い。

 
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