Free(38)景気の正体 松田英嗣・あおもり創生パートナーズ取締役
9月に入ったが、通勤だけで体力が消耗され仕事の能率にも悪影響を及ぼすほどの猛暑が続いている。夏は程よく暑いに越したことはないが、今夏は「暑すぎたあの夏」として多くの人々の記憶に刻まれるのではないだろうか。
気候が景気に与える影響はよく語られるところであり、多くの人々が経験的に見込む程度に「夏は暑く」「冬は寒く」なることが景気の拡大には必要だ。予想外の冷夏や暖冬は、多くの企業活動や個人の消費行動にマイナスの影響を及ぼすことになる。何事も程よく、が肝要だ。
気候の他にも、景気を動かす要素にもう一つの「気」がある。ここで言う「気」とは、経済活動を構成する「個人」や「企業」の集合体としての「気分」のことであり、先行きに対する期待感と言える。
先行きに対する期待感が高まると、「個人」の消費が活発化したり、「企業」の設備投資意欲が積極的になったりと、景気にはプラスに作用する。一方、先行きへの期待感が低迷すると、個人消費や設備投資などへの姿勢は消極的となり、景気にはマイナスに作用する。
弊社では本県企業の「気」を推し量ることを目的に、県内企業約500社に対して3カ月ごとに「BSI調査」と称するアンケート調査をお願いしている。
BSIとは「Business Survey Index」の頭文字を取った略称であり、前年同期と比較して業況好転か悪化かを回答いただく調査だ。そして「業況好転企業の割合」から「業況悪化企業の割合」を差し引いた値を「業況BSI」として公表している。
最新の調査結果は、2023年2期(4~6月)の状況であるが、業況BSIは9・9と非常に高い水準にある。加えて22年4期(10~12月)以降、業況BSIはプラスの状態が続いている。さらに、概して厳しめのバイアスがかかる来期の見通しでもプラスを維持する見込みだ。総じて県内企業の景況感は上向きであり、「気」が充実しつつあると言えそうだ。
また、同時に調査した「経営上の課題」では、「仕入単価上昇」(59・2%)、「人員不足」(49・8%)、「燃料価格上昇」(48・3%)がトップ3に上がっている。企業の「気」への下押し圧力となる経営上の課題を克服するためには、価格転嫁による適正収益の確保を要するが、これとて社会全体の「気」がその成否を握っている。
一方、個人の「気」を決定付ける大きな要素は、収入の将来見込みに他ならない。今春の30年ぶりとなった高い賃上げ率や最低賃金の大幅な底上げは、個人の「気」には間違いなくプラス要素となる。
あとは、来年度以降も当面高い賃上げ率が続きそうだといった先行きに対する期待感が必要だ。ただ、あまりに高い賃上げ率は企業収益の悪化を通じて、企業の「気」にはマイナスとなる可能性を内在する。ここでも、程よいバランスが肝要だ。
景気には企業や個人の集合体としての「気」が大事との話を進めてきたが、翻って自分のことを考えると、暑さで気力が萎(な)え、仕事の能率に悪影響があるなど後ろ向きの「気」を発散している場合ではない。「気」を構成する120万県民の中の1人として、先行きの涼やかな秋に期待を抱きながら、今晩も暑さ対策用のビールでも買って消費拡大に貢献しなければなるまい。