Free(33)企業の人材確保 武藤一郎・日本銀行青森支店長
青森県内の企業では、このところ人手不足感が急速に強まっている。
コロナ禍からの景気の持ち直しを受けて労働需要が高まる中、人口減少が急速な当県では特に人手不足が顕在化しやすく、飲食・宿泊などの対面型サービスや、輸送・運転、販売など幅広い職種で有効求人倍率が高まっている(図1)。
こうした中、県内企業では、人材確保に向けたさまざまな施策が行われている。日本銀行青森支店は7月21日に特別調査を公表し、県内企業の人手不足感の強まりと人材確保に向けた施策について整理した。
県内企業の間では、労働条件の改善を企図して、(1)積極的な賃上げ(2)給与体系の見直し・充実(3)給与以外の待遇改善・充実(4)若手の裁量権拡大(5)積極的な能力開発―などの施策を行う動きがみられている。
若者を中心としてワークライフバランスや働き方を重視する傾向が強まり、キャリアアップを企図した転職も増加する中、企業では賃上げを含めた待遇改善により、従業員のモチベーションを高める施策が導入されている。
また、県内企業の中には、採用方法の改善を企図して、(6)求人方法の多様化(7)知名度の引き上げ(8)外国人労働者の採用積極化―などの施策を行う事例がみられる。スマートフォンの普及などを受け、求職者が民間求人サイトで手軽に転職先を探すようになったため、一部の企業では民間エージェントを活用している。また、インターンシップの実施などで学生からの知名度を引き上げたり、外国人労働者の採用を強化したりする企業もある。
県内企業はこうした多様な取り組みを行っているが、多くの企業は求人が充足せず、人手不足が解消しない状況にさらされている。実際、宿泊施設では宿泊予約や営業日数を制限したり、運輸業では運行本数を本来よりも少なくしたりするなど、人手不足を理由とする需要の取りこぼしを指摘する声が聞かれる。
その背景には、そもそも当県の人口減少ペースが速いことに加え、コロナ禍で収益環境が悪化し賃上げを行う余裕がないことや、待遇差に起因する首都圏企業への人材流出がある。また、人材確保に十分なコストを掛けられていないことや、民間エージェントを経由した採用方法の導入が他地域と比べ進んでいないなど、近年の採用市場の変化に対応しきれていない面もある(図2)。
こうした下で、行政機関では、専門人材のマッチングや人材採用・繋留(けいりゅう)に掛かる費用の助成、人材確保のためのコンサルティングの実施などの支援に取り組んでいるほか、金融機関でも民間エージェントと提携し、人手不足に悩む企業を紹介することで、中途採用を後押しする事例がみられる。
今後は、こうした施策が当地に一層浸透していくことで、県内企業の人手不足の解消につながることが期待される。同時に、当県の人口減少の速さを踏まえると、県内企業の多くで、今後の趨勢(すうせい)的な労働力減少を見据えて、労働生産性を高める取り組みが広がることも期待したい。