Free【揺れる水産都市・第2部「激化する産地間競争」】①漁船誘致
北から流れてくる栄養分に富んだ親潮と、南から流れてくる暖かい黒潮がぶつかる三陸沖。大量の植物プランクトンが発生し、サバやイワシ、サンマ、カツオ、マグロなど、多種多様な魚が餌を求めて集まる。世界三大漁場の一つだ。
八戸をはじめとする北太平洋沿岸において、水産業の発展は恵まれた漁場の恩恵なくして語れない。各漁港は地域性を生かし、得意な魚種を育て、共存しながら歴史を重ねてきた。
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過去最低の385万8600トン―。そんな衝撃的な数字が各地のハマに伝わったのは今年5月だった。
農林水産省のまとめによると、2022年の国内の漁業・養殖業の生産量は前年比7.5%減。1956年に現行調査を始めて以来、最も低かった。
海面漁業の主要魚種は軒並み不振で、サバが前年比28.5%減、カツオが28.6%減。不漁が続くサンマ、スルメイカはさらに落ち込み、それぞれ5.6%減、8.3%減。ともにピーク時の5%に届かず、最低記録を更新した。漁獲量1位のマイワシも4.2%減だった。
海洋環境の変化で資源が減ったり、魚の回遊ルートが変わったり。近年は不漁の傾向が顕著で、苦境に立つ水産業の現状が改めて突きつけられた。
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水揚げが減少の一途をたどる一方で、激しさを増しているのが産地間競争だ。三陸の各漁港は、基幹産業の存続を懸けて、海域で操業する大中型巻き網船の誘致に力を入れる。
巻き網船団は、漁模様によって拠点港を変える“旅船”だ。一隻当たり一度に100トン超の水揚げが可能で、船員も数十人規模。入船によって水産関連産業は潤い、港は活気に包まれる。
漁場に近い港に一極集中していた水揚げは近年、船側の判断である程度選べるようになった。背景にあるのは船の大型化、高速化。製氷技術も向上し、魚体の鮮度を維持する能力が高まった。
その日の漁場、各港の魚価相場の推移、処理能力。船はさまざまな要素をてんびんにかけ、水揚げする港を決める。引き合いがあっても「もうからない」と考えれば、漁場から近い漁港を素通りし、燃油代を費やして他港へ水揚げするケースもある。
魚が余るほど取れた時代は終わり、一匹に価値を見いだす時代になった。魚価は上がり、「大衆魚」と親しまれた魚は、簡単に手が伸びる品物ではなくなった。
それでも魚がなければ、産業は成り立たない。少ないパイを奪い合う産地間競争の火ぶたは、既に切られている。「漁船誘致は地域の底力の結集だ」。かつて日本一の水揚げを誇った八戸港関係者の危機感は強い。