Free(32)移輸出入収支額 佐藤雅裕・青森財務事務所長

主な域外市場産業の移輸出入収支額(青森県2018年)
主な域外市場産業の移輸出入収支額(青森県2018年)

6月末に宮下宗一郎氏が知事に就任し、新しい青森県政がスタートした。選挙戦ではさまざまな政策論争が繰り広げられ、青森県の将来について改めて考えた方も多いだろう。他県に比べて人口減少率が高い青森県では、働き手や地域内需要の急速な減少により地域経済の縮小が危惧され、県経済をいかにして活性化していくかということは重要な論点である。

 地域経済を構造的に整理すると、地域外を主な市場とする「域外市場産業(製造業、農林水産業、観光など)」と、地域内を主な市場とする「域内市場産業(小売業、生活関連サービス業など)」に分けて考えることができる。

 例えば、製造業の会社が地域外への製品販売で売り上げを得て従業員に給料を支払う。その従業員が地元の商店で消費をして、商店は従業員に給料を支払うといった構造があり、これがうまく循環していくと地域内の需要拡大により、地域経済が活性化していく。

 つまり、青森県経済が活性化するためには、製造業、農林水産業、観光などの域外市場産業がいかにして県外から所得を稼いでくるか、いわゆる「稼ぐ力」が重要となってくる。

 稼ぐ力を計る目安の一つに「移輸出入収支額」という指標がある。これは、ある産業の地域外からの収入から地域外への支出を差し引いた金額であり、プラスになればその産業は地域外から所得を稼いでいることになる。

 先述した主な域外市場産業の移輸出入収支額(2018年)をみると、青森県全体で非鉄金属、鉄鋼、パルプ・紙・紙加工品、電子部品・デバイスなどの製造業、および農業、水産業などがプラスとなっており、県外から所得を稼いでいることがわかる。

 一方、青森県の製造品出荷額等で最大の割合を占める食料品製造業や、観光と密接に関係する宿泊・飲食サービス業はマイナスとなっており、域外市場産業でもあまり稼げていないことが読み取れる。

 八戸市は、このような域外市場産業が多数立地している。臨海部を中心に、食料品、鉄鋼、非鉄金属、製紙などの多様な製造業が立地しているほか、全国上位の水揚げを誇る水産業、畜産などを中心とした農業、宿泊・飲食サービス業でも県内上位を占めている。

 稼ぐ力としての域外市場産業をバランスよく併せ持ち、青森県経済をけん引する役割を担っているが、昨今は市内の製造業や水産業が原材料の不足や高騰、記録的不漁などで苦境に立たされており、業況の一刻も早い回復が望まれる。

 八戸市以外でも、県内各地域に特色ある域外市場産業が多数立地している。製造業では、津軽地域に半導体、電子部品・デバイスなど、上北・下北地域に原子力・エネルギー関連の工場などが立地している。農業や水産業ではリンゴ、ナガイモ、ゴボウ、ニンニク、ホタテなど全国上位の産品が多数あり、それぞれ県外、海外から高い評価を得ている。

 また、県内の観光地にはコロナ禍を経て再びインバウンド(訪日客)が多数訪れており、さらに今年は各地の夏祭りが通常規模で開催されることから、宿泊・飲食サービス業などが重要な稼ぐ力となってくる。

 県内各地域に立地する域外市場産業の特色や強みを生かし、弱い部分は行政、企業、経済団体などが連携して稼ぐ力をより一層意識した産業育成に取り組むことによって、県経済が活性化していくことを期待したい。

 
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