Free(29)賃金水準の低さ 武藤一郎・日本銀行青森支店長
本年も6月末の折り返し点を迎えたが、年前半にみられた経済面の大きな変化は、春闘での賃上げの広がりであろう。連合の最新集計では、全国の組合における平均賃上げ率(ベア+定期昇給)は3・66%と、30年ぶりの高水準となった。背景には、(1)人手不足感の強まり(2)物価高に伴う職員の生活保障の必要性―の2点がある。
青森県でも、本年は賃上げの動きが広がった。連合青森による集計(4月20日時点)では、当県組合の平均賃上げ率は4・29%と、昨年の2・40%を大きく上回り、全国の賃上げ率もかなり上回る。ただ、当地企業などとの懇談では、この数字は実感と比べやや高すぎるとの声も聞く。考えられる理由は、当県では組合を有さず、連合の集計対象外となる企業が多いことである。
そこで、あおもり創生パートナーズによる県内個別企業への調査をみると、本年の賃上げ率を「2~3%」とする企業が最も多く、連合青森の数字よりは控えめである。とはいえ、賃上げを実施する企業の割合は約7割に達し、当地でも例年以上に賃上げの機運が高まったのは事実だろう。
このように、本年の賃上げが広がりをみせたことは、経済の好循環に向けた明るい兆しではある。しかし、より構造的な観点に立った場合、青森県における本質的な問題は、全国と比べた賃金水準の低さ、すなわち、「賃金格差の大きさ」にある。
賃金格差を把握するため、厚生労働省の2022年・賃金構造基本調査を確認すると、全国の労働者における平均月給(1カ月分の所定内給与)は31・2万円だが、青森県は24・8万円であり、全国の都道府県中、最も低い水準に位置する(図1)。全国対比でみた青森県の平均月給の相対値(相対賃金)は79・4%であり、このことは青森県の賃金水準が全国と比べ、約2割低いことを意味する。
過去の推移をみても、青森県の平均月給は全国を一貫して大きく下回る(図2)。子細にみると、青森県の相対賃金は、2000年代前半の75%程度から近年の80%程度へと上昇しているが、格差縮小のペースは約20年で5%程度とかなり緩やかだ。また、職種別にみるとばらつきがあり、特に、農林漁業で72・7%と当県を代表する1次産業で賃金格差が特に大きい(図3)。
以上でみたように、全国との賃金格差は当県経済の構造的な問題であり、このことが、若者をはじめ労働者が県外に流出する根本的な理由となっている。
先般の知事選でも、県外への人口流出が当県経済の大きな問題として取り上げられたが、その観点でみても、残り2割となっている全国との賃金格差をどのように解消していくかは、極めて重要で、かつ根深いテーマである。解決に向けた、自治体、企業、経済団体など関係者の取り組みを期待したい。