Free【北奥羽各駅めぐり】⑰向山駅 精糖工場専用線の名残
おいらせ町向山にある青い森鉄道向山駅は、町内に二つある鉄道駅の一つ。1日平均乗降人員は66人(2018年度)と小規模な無人駅だが、鉄道ファン有志の「向山駅愛好会」が駅舎事務室を改装したミュージアムを開設するなど、地域に支えられ独自の存在感を発揮している。
1922(大正11)年に官設鉄道の「木ノ下信号所」として開設。36(昭和11)年に駅へと昇格し、62~76年は貨物も取り扱った。
愛好会の吉田健志副会長(43)は「駅舎の形状などが独特。路線は青い森鉄道だけでなくJR貨物の列車もがんがん走り、今も日本の大動脈の役割を果たしている」と熱く語る。
特徴的なのが、62~67年に稼働した六戸町のフジ精糖(現フジ日本精糖)青森工場に向けて敷設された専用線だ。駅構内に足を踏み入れるとまず、フェンスで仕切られたこの線路が目に入る。電車用のホーム(1面2線)に行くためには、陸橋を渡る必要がある。
駅から西方へ2キロほど先の工場までを結んだ専用線は撤去済みだが、構内では今も気動車用のレールとして活用。2線分あり、一つは車止めが目印。もう一つは車庫につながっている。
華々しく稼働した工場は貿易自由化のあおりを受け、わずか5年で閉鎖。国が奨励した原料のテンサイ(サトウダイコン、ビート)栽培も急速にしぼんだ。国策の名の下に紆余曲折の道をたどった、むつ小川原開発へとつながる歴史の一こまを垣間見る思いだ。
一帯には意外なエピソードも。青森県立三沢航空科学館の大柳繁造館長(87)によると、駅に昇格する前の昭和初期の一時期、近くに民間用の飛行場があり、旧陸軍が拡張、整備する計画もあったという。「油川飛行場(旧青森飛行場)ができる前だ。札幌と仙台の中継地。軍民共用の話もあったが、陸軍は結局やめたようだ」と説明する。
愛好会が“博物館”開設
旧国鉄時代の駅の備品など貴重な資料を集めたマニア垂ぜんのミュージアムは現在、新型コロナウイルスの影響で休館中。今月28日のイベントも中止となったが、会員は花壇の整備や雑草刈りといった手入れを欠かさない。中村淳悦会長(66)は「ジオラマのリニューアルなどを進め、再開に備えたい」と話す。
駅舎向かいの公園は旧国鉄職員の宿舎跡地。園内に水洗トイレが立っている。