Free(11)価格転嫁と賃上げ 武藤一郎・日本銀行青森支店長
青森県経済は現在、ウィズコロナの定着などを背景に持ち直しているが、今後、経済に好循環が生まれるためには、企業収益と家計所得の増加が必要である。鍵となるのは、企業による価格転嫁と賃上げに関するスタンスだ。
昨年半ば以降、世界的なインフレ圧力の下で、わが国でも、原材料価格の高騰を価格転嫁する動きがみられた。日本企業は長い間、販売価格の引き上げに慎重だったが、当方が出席した当地経営者の会合でも「皆さん、もう我慢せず値上げしましょう」と互いに声かけしていたのは印象的であった。
もっとも、あおもり創生パートナーズによれば、昨年10月時点で、当県企業の価格転嫁率は平均35・9%にとどまる。価格転嫁率の低さは、物価の上昇幅を抑制する反面、企業収益を圧迫し、賃上げの原資が減ることで家計所得の増加を抑制する。経済の好循環を生むには、企業が価格転嫁を進め、企業収益を確保することが必要だ。
ただ、単純な値上げばかりでは需要の減少を招く可能性がある。そのため、できるだけブランド力やデザイン性・利便性の向上などにより、付加価値を高めた上で値上げを行うことが望ましい。需要者から評価される形での販売価格の引き上げは、売り上げや収益を増加させる傾向にある。
次に、賃上げについて考えたい。当県では現在、有効求人倍率が上昇傾向にあるなど人手不足の声が強まっているが、現状では賃金の伸びは緩やかにとどまり、物価上昇のペースには追いついていない。
ただし、連合青森によれば、昨年の春闘での当地企業の平均賃上げ率は2・40%、地場企業に限れば2・56%となっている(図参照)。これは、全国平均(2・07%、中小企業に限れば1・96%)と比べ0・4~0・6%ほど高く、東北の中では最も高い水準である。青森の賃上げ率が全国対比高い傾向は過去数年続いている。
この理由は、都市圏との所得格差が大きい当地では、人材をつなぎとめるための賃上げの必要性が高い点にある。実際、連合青森は、格差是正を企図して、春闘の賃上げ率目標を全国よりも1%分高く設定している。
今次春闘での全国の目標は定期昇給+ベアで5%だが、連合青森の目標は6%である。この点を踏まえると、昨年以上に人手不足感が強まる中で、全国の賃上げ率が高まれば、今年の春闘で当県の賃上げ率が相応に高くなる可能性はある。
ただし、原材料価格や電気代などのコスト増の下での賃上げは困難との声も多数聞かれる。実際、賃上げが企業のコスト増のみをもたらすなら、持続的な動きにはつながらない。その点を考えると、賃上げと併せて生産性を高めることが必要である。
以上を踏まえると、経済の好循環を生むには企業による価格転嫁と賃上げが必要だが、これを社会全体としてスムーズに進めるには、付加価値や生産性を高める取り組みが併せて行われることが肝要と言える。
2023年、当地でそうした取り組みが広がることを期待したい。