Free(8)タイムパフォーマンス 松田英嗣・あおもり創生パートナーズ取締役
今年も残すところ2週間余りとなったが、加齢とともに1年の経過が早く感じる。42年前のこの季節、ジョン・レノン暗殺という衝撃的事件が世界を駆け巡ったが、感覚的にはそんなに昔の事件とは思えない。こうした年齢とともに時が早く過ぎ去る感覚の正体は、フランスの心理学者によって解き明かされており「ジャネーの法則」と呼ばれる。
理屈はこうだ。同じ1年間でも、50歳の大人にとっては人生の50分の1にすぎないが、5歳の子どもにすれば人生の5分の1を占める。つまり、5歳の1年は50歳の10年に匹敵することになり、この心理的時間の差が「年齢とともに時が早く過ぎ去る感覚」の正体だという。
さて、個人消費の拡大戦略として「タイムパフォーマンス」という概念が注目されている。限られた時間で、より大きな満足を獲得したいと考える層が増えているということであり、特に若年層には「タイパ」と略して呼ばれ、消費行動決定に際して要する時間を重視する傾向が強いという。
そこで、冬場に大きく落ち込む青森県観光需要対策として、観光とタイパについて考えてみたい。
コロナ禍2年目にあたる2021年4月から22年3月までの1年間に、県内で費消された観光消費額は総額689億円で、コロナ直前比4割弱の水準にとどまっている。なお、観光消費額とは、観光客らが費消した「宿泊費」「交通費」「買物代」「飲食費」などの合計額であり、旅先で使われたお金の規模を示す。
総額689億円を属性別に分解すると、県内客360億円、県外客329億円であり、本県観光消費の主役は県民となっている。
つまり、県境をまたぐ移動の自粛ムードが広がる中、近場で観光するマイクロツーリズムを楽しむ県民が相応に存在し、県内の観光関連産業を下支えしていたことになる。当面、インバウンド(訪日客)や県外観光客の大幅増が期待できない環境の中、観光関連の事業者にとっては、マイクロツーリズム需要を掘り起こすことが必要だ。
さらに、21年の県民のマイクロツーリズム実施率は人口比で105・0%であり、近隣他県と比べまだまだ上昇の余地はありそうだ。しかも、コロナ前の19年に比べ本県は19・2ポイント上昇しており、県民もマイクロツーリズムのタイパの高さに気付き始めていると考えられる。
先日「上北自動車道」の最終区間「天間林道路」が開通し、青森市―八戸市間の所要時間は13分短縮された。実際に車を走らせてみたが、体感的には13分以上短縮されている。開業20周年に沸く八戸駅までは新幹線で二十数分と、かつてに比べて津軽地域と県南地域の時間距離は大幅に短縮されている。
心理的時間は年齢とともに早くなるが、「心理的距離」は交通インフラの整備とともにどんどん短くなっている。時間を味方につけることが、新たな需要開拓には必要だ。
これから本格化する冬場は、本県観光消費額が大きく落ち込む時期となる。この時期、自分の暮らす青森県のまだ見知らぬ地域で、タイパの高いマイクロツーリズムを楽しんでみてはどうだろう。