Free増やそう、寂聴さんのアジサイ 目標1万本、移植プロジェクト始動/二戸

天台寺の境内にアジサイの苗を移植する市民と児童=23日、二戸市浄法寺町

二戸市浄法寺町の天台寺で、名誉住職の故瀬戸内寂聴さんが残したアジサイを公民連携で増やすプロジェクトが始まった。23日には、地元の小学生と住民、市が協力し、昨年から育ててきた苗木約500本を参道周辺に初めて移植。アジサイを寺の名物にした寂聴さんの思いを受け継ぎ、開山1300年となる2028年までに、現在約4千本あるアジサイを1万本に増やす計画だ。

夏に見頃を迎える天台寺のアジサイ。市民の力で現在の倍以上の1万本に増やすことを目指す=7月6日

寺は奈良時代の728年に創建。東北最古の名刹(めいさつ)として名をはせるが、明治初めの廃仏毀釈(きしゃく)で仏像が破壊された。戦後も1950年代の霊木伐採事件などで荒廃の一途をたどる中、寂聴さんは87年の住職就任後、「寺を彩り豊かに復興したい」と決意。アジサイを京都から株分けし、徐々に増やした。青や白など色鮮やかな花々は例年7月前半ごろに見頃を迎え、参拝客や「あじさい祭り」来場者を歓迎するように咲き誇る。

 二戸の人々と風土を愛し、寺の再興に全力を注いだ寂聴さんは2021年に99歳で死去。その情熱は、地域の人口減少が急速に進む中、にぎわい創出を切望する市民の心に今も息づく。

 市は昨年、公民連携事業で寺周辺の活性化を検討する中、「アジサイを増やして観光誘客につなげたい」という市民の意見を受け、植栽を計画。境内のアジサイの枝から苗を作り、育てるプロセスに市民が関わることで、地元への愛着を高め持続性のあるプロジェクトにしたいと考えた。

 市立浄法寺小の児童や地域団体がポットの苗作りに協力。市浄法寺総合支所の職員が引き取ってビニールハウスで冬越しさせ、春以降は支所前で育てた。

 担当した同支所日本遺産プロジェクト推進室の斉藤徹弥さん(36)は、「苗に水やりをしていると、市民が関心を持って話しかけてくれた。今後も協力者を増やせれば」と期待する。

 23日は寺の境内に、児童や市民ら約80人が集結。本堂から仁王門までの参道周辺にスコップで穴を掘り、1本ずつ丁寧に移植した。

 同小5年の髙森美優さん(11)は「アジサイを植えるのは初めてで、楽しかった。きれいな花を咲かせてほしい」と笑顔。同寺責任役員の千葉康行さん(80)は「寂聴さんの思いを、次の世代が引き継いでくれてありがたい。檀家も高齢化し、市民の力が必要な時なので心強い」と感謝した。

 地域団体「浄法寺賑(にぎ)わいづくり実行委員会」の小軽米健太会長(42)は、「地域の宝の天台寺を維持し、観光振興を図るには、地元で関わる人づくりが何よりも大事。子どもを含め、長く活動に参加し続けてもらうのが意義深い」と強調。来年、境内の夜間ライトアップを初めて行う計画で、「アジサイの開花時期から始め、徐々に他の季節にも試みながら、滞在型の観光につなげたい」と意欲を示した。

 
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