Free【下村青さん死去】「神様はいじわる」 地元・三戸の関係者、悲しみ深く
三戸町出身のミュージカル俳優、下村青(旧芸名・下村尊則)さんの訃報が伝えられた17日、下村さんと親交が深かった関係者は悲嘆に暮れた。「夢に向かってひたすら突き進んだ人だった」「想像を絶する努力を重ねていた」―。関係者は、田舎町から一念発起して上京、渡米を経て日本ミュージカル界のトップスターにまで上り詰めた故人の生きざまをたたえつつ、余りに突然の別れに涙をこぼした。
下村さんの個人事務所によると、下村さんは町内の実家に帰省中の15日、ベッドに横たわっているのを親族が見つけた。60歳だった。死因は調査中で、遺族の意向により葬儀は近親者のみで執り行われる。
俳優仲間は交流サイト(SNS)で驚きと悲しみを吐露した。劇団四季で数多く舞台を共にした石丸幹二さんはX(旧ツイッター)で「下村さん。劇団時代、共に切磋琢磨し、公私共に支え合った仲間でした。深い悲しみの中にいます。ご冥福をお祈りします」としのんだ。劇団四季の同期だった栗原英雄さんは「シモ20歳クリ19歳の出会い。劇団の中で育ち、退団後もいろいろな場所で学び、互いに役者生活40周年の年でした。今は悲しみの中にいます。心からご冥福をお祈りいたします」とポストした。
下村さんは10月31日~11月16日に東京・自由劇場で開かれるミュージカル「ユタと不思議な仲間たち」に、ペドロ親分として出演することが決まっていた。八戸市出身の作家・故三浦哲郎さんの作品を原作に、下村さんの恩師である故浅利慶太さんがミュージカルに仕立てた作品。下村さんは配役以外にも、作品の特徴となる南部弁の方言指導も行う予定だった。
三戸時代の同級生で親交を重ねてきた都内在住の細川由理子さん(61)は、3日に下村さんと交流サイト(SNS)でやりとりした。「ユタのチケット買ってくれた?」「買ったよ」「ありがとう」。普段、購入依頼は事務所からくるのに、本人から直接きたことに驚いた。これが下村さんとの最後の連絡になった。
「ミュージカルを見に行って私たちと会うと、南部弁で話しかけてきて周囲を驚かせていた」とのエピソードも。細川さんは思い出を振り返りつつ「悲しいが、三戸で亡くなるのは彼らしいとも思った。彼は三戸を自分の原点として大事にして、常に三戸の方を向いていた」としのんだ。
幼なじみで町内に住む工藤高明さん(60)は、下村さんの公演があるとツアーを組んで何度も上京、公演後は酒を酌み交わす間柄だった。
下村さんは7月5日に母校三戸中(現・小中一貫三戸学園三戸中)で講演した。工藤さんは「さまざまやり抜いて古里に戻り、子どもたちや恩師と対談できた。それが彼の区切りとなったのか…。もう帰ってこないから、そう思うしかない」とむせび泣いた。
「彼には『悔いのない舞台人生だったんじゃないか、よくやったよ』と声をかけてやりたい」。このときに対談した、三戸時代の恩師で八戸市在住の津田健造さん(77)は、下村さん出演の舞台パンフレットをめくりながら目頭を押さえた。「悔しい。本当に悔しい。彼の舞台への情熱を思うと、神様はなんていじわるなんだ」