Free「自分の出発点見つめ直せた」 奈良美智さんインタビュー
日本を代表する現代美術家で、世界的評価を受ける弘前市出身の奈良美智さん(63)が、青森県立美術館で10年ぶりに開催中の個展に合わせ、本紙などの取材に応じた。東日本大震災をきっかけに価値観が揺らぎ、「あくせくせず、本当にやりたいことをやる生き方に変わった」と述懐。故郷や過去と向き合う時間が増えたといい、自身のルーツの青森で開く個展を通して「自分の出発点を見つめ直せた」と語った。
震災直後は絵が描けなくなったという奈良さん。「生きるのに精いっぱいな状況が被災地にあり、余裕があって初めて芸術や文学、音楽が成立する」と感じた。
絵筆を取るのも嫌だったが、何かを作りたくて粘土を触ると、自分のルーツや東北地方など制作に関係ないことを考えられ、リハビリになった。
それ以降、「自分は故郷に背を向け、アートの世界しか見ていなかった」と自分史に関する土地を旅するように。現地の子どもたちと一緒に絵を描くなど気ままに活動する中で、「美術をやるために生きてきたのではなく、自分が生きている中にたまたま美術が少しの割合を占めていた」との思いに至った。
今回の個展では、復興への希望を込めた震災後初の絵画「春少女」のほか、捨てたと思っていた学生時代の油絵や弘前時代に先輩と作ったロック喫茶を再現して展示する。「自分の一番下にあって、めくってもめくっても、なかなかたどり着けないものに気付けた」と話した。