Free(27)後継者不足 徳永博一・帝国データバンク青森支店長

青森県の後継者不在率と社長平均年齢の推移
青森県の後継者不在率と社長平均年齢の推移

青森県の地域経済や雇用を支える中小企業。近年はコロナ禍の影響のみならず、人手不足や原材料高、エネルギーコストの上昇などもあって収益環境は厳しい。こうした中で、事業において黒字を確保できているにも関わらず、後継者が見つからないことを理由として廃業を選択する経営者も多い。

 青森県における後継者の不在率は約60%(帝国データバンク2022年青森県後継者不在率調査による)に達している。地域雇用の安定を維持し、地域企業が保有するノウハウ、技術、顧客基盤といったさまざまな資産を守っていくためにも、事業承継に対する取り組み、支援などの重要性は一層高まっている。

 中小企業経営者の高齢化が進み、団塊の世代が後期高齢者になる「2025年の問題」も取りざたされる中、近年は事業承継に対する啓蒙活動も積極的に行われており、県は「青森県事業承継・引継ぎ支援センター」を開設して円滑な事業承継の支援にも取り組んでいる。また、事業承継税制や金融支援といった「経営承継円滑化法」に基づくさまざまな支援策も用意されている。

 なお県内における社長の平均年齢は61・9歳(帝国データバンク21年社長年齢分析による)で、全国でも3番目に高い水準にある。同調査による2000年の社長平均年齢は56・6歳だった。直近20年間で5・3歳高まるなど、社会全体の高齢化が進むにつれて、社長の平均年齢も右肩上がりで上昇している。

 社長の平均年齢の上昇は培ってきた経験を生かし、長きにわたり第一線で活躍して経営手腕を発揮する、と言った面で一概にマイナスとは言えない。ただ、前述のように後継者不在率が高止まりする状況下では、懸念すべき事象とみるべきであろう。

 事業承継においては、後継者の選定から育成、就任までには一般的に数年スパンでの取り組みが必要となるほか、やり直しは困難である。近年はコロナ禍にあって、改めて後継者問題に目を向けた経営者も多かったことに加え、官民一体となってのさまざまな啓発活動、サポート体制の拡充などを背景に、経営者の事業承継に対する意識も変わってきていると言え、近年上昇基調にあった後継者不在率にも改善の兆しは認められる。またM&Aといった手段の多様化もみられる。

 地域経済を活性化させるためには、当然ながら創業支援、企業誘致なども大切であるが、長年にわたる営業活動によって、直接的には決算書に計上されることのない技術、ノウハウといった知的資産を保有する企業に存続してもらうことは極めて重要である。

 そのためには、何より経営者自らの行動が第一歩であり、後継者候補の選定、幹部人材の育成、個人的なスキルに過度に依存した経営からの脱却など、さまざま取り組みが求められる状況と言える。

 
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