Free【揺れる水産都市・第1部「疲弊する関連業界」】①記録的不漁
八戸港の盛漁期真っただ中の2022年9月。巻き網船のサバが水揚げされる八戸市第1魚市場に、かつての活気はなかった。10、11、12月と月日を重ねても、漁獲が好転する気配はない。
「こんな散々な状況では全く商売にならない。船が魚を取らないと、われわれの仕事もない」。港で鮮魚輸送を手がけるドライバーが諦め顔でこぼした。
年の瀬を迎え、衝撃的な数字にハマが揺れた。市水産事務所が発表した八戸港の22年の水揚げ数量は2万8876トンで、75年ぶりに3万トンを割った。約82万トンで過去最高だった88年のわずか3.5%にすぎない。
サバに至っては2060トン止まりで、加工用に適さない小ぶりが主体。イカに続き、主力魚種の漁獲が急落した。「八戸の漁業はどうなってしまうのか」。水産業界が悲鳴を上げる。
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地元に強いショックを与えた水揚げ不振。大中型巻き網船のサバ漁は、八戸沖で漁場が形成されなかったという。ただ、一部の関係者は「低迷の原因はほかにもある」との見方を示す。
本紙はある水産関連事業者が独自に集計した、北部太平洋にある漁港別のサバ(巻き網船)の魚価比較データを入手した。それによると、三陸沖に漁場があった21年11月15日は八戸、大船渡、気仙沼、女川、石巻の各港で水揚げがあり、10キロ当たりの価格で八戸港は安値、中値のいずれも最低。特に中値は気仙沼港の半分程度にとどまった。
市場価格は漁獲量やサイズなどによっても変わるが、この事業者は「他港と比較したデータを見ると、いかに八戸港が安いかが分かる」と説明する。21年はイワシも軒並み八戸港の価格が他港より低かった。
22年のサバ漁は全国的に振るわなかった。ただ、近年の低価格傾向により、巻き網船が八戸港への水揚げを敬遠している可能性も否定できない。
下降線をたどる数字と、そこに横たわる構造的な要因。業界内には「港全体で魚価を上げる努力をしなければ、巻き網船の誘致につながらない」との声も潜む。
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三陸の豊かな漁場の恩恵を受ける水産都市・八戸。だが、ここ数年は不漁に歯止めがかからず、長年かけて築き上げた水産基盤が崩壊の危機に直面している。
八戸市の水産業は多様な業種で成り立っており、漁船漁業の変調は関連業界にも余波を広げる。
卸・仲買業者は取扱量が減少。輸送や製氷、水産資材の各業界は受注低迷にあえぐ。水産加工業者は地元でまとまった原料を調達できず、生産コストの高騰で体力を奪われた。冷凍倉庫の空いたスペースに、魚の代わりに肉用鶏などを保管している企業もある。
小売店や飲食店は地魚の確保に苦慮。八食センターで「福真」を運営する福田眞幸八食店長は「八戸を代表するイカやサバなど、地場の生魚を店頭に出す量が少なくなった」と話す。
関連業界では、廃業や業態転換も増え始めた。八戸港は大量の水揚げと輸送の受け入れが可能で、魚を消費する加工業者の集積に優位性があった。業界全体の弱体化が進めば、競争力の根源だった港の処理能力を失う懸念もある。
八戸港の衰退を憂うある事業者は「このままでは漁獲が回復しても、港として以前のように対応できなくなる」と指摘。「昔の良かった時代にあぐらをかいている場合ではない。関連業界が知恵を絞って対策を考えるべきだ」と訴える。