Free第11回 与える楽しさ
〈2016年6月28日掲載〉
私はいつでも刺激に飢えています。曲を作るためのガソリンです。手っ取り早くそれを得られるのが映画です。よく映画鑑賞をします。
先日、空想委員会が主題歌を担当した映画「燐寸マッチ少女」が公開になりました。まず、この作品について簡単に説明すると、元々は漫画が原作です。今回それを実写化するということで、主題歌の制作を我々にオファーしてくださいました。
世の中にはたくさんの漫画原作の映画やドラマがありますが、「燐寸少女」は実写化して大成功したといえる作品だと思います。
マッチを擦ると妄想が現実になるという話なので、実写にすることで妄想が妄想らしく見えなくなるのではないかと心配していました。しかし、私の考えは完全に間違っていました。妄想はより妄想らしく見えたのです。
映画を見ながら、この素晴らしい作品に携わらせていただけて本当に光栄だなと考えていました。
物語も終わりに近づき、空想委員会のギタリスト佐々木が作ったイントロが流れ始めました。
いよいよ空想委員会の曲が流れるのだと期待も最高潮に達したのですが、歌が耳に入ってきた途端、私は一気に現実に引き戻されてしまいました。
自分の歌声を聞いて、映画の余韻は消え去ってしまったのです。主題歌担当という仕事モードに切り替わってしまったとでもいいましょうか。
携わった作品を、聴く側だった昔と同じ感覚で楽しむことはもうできないのだと、寂しさを感じました。しかし、映画を見に来たお客さんは余韻に浸りながら曲を聞いてくれているのだと思うと、今まで知らなかった新しい楽しみ方を得た感じがして、とても嬉しくなりました。
今までは、人から与えてもらう楽しさが全ての私でしたが、これからは自分が与える楽しさも求めていけると思ったのでした。ギターを始めた高校生の頃には知る由もなかった新たな感覚を与えてくれた今回の仕事に本当に感謝しています。音楽を楽しむ感覚も、音楽で楽しませる感覚も両方知って世界が広がりました。
これからも思う存分満喫させていただきます。私が楽しんでやったことで皆さんが楽しんでくれることを祈りつつ、いい音楽を作って歌っていきたいと思います。